• 実施日時:平成30年2月27日(火) 10:30〜17:00
  • 会場:農林水産省 7階講堂 〒100-8950 東京都千代田区霞が関1-2-1
  • 参加者:364名

1.平成29年度鳥獣被害対策優良活動表彰受賞者からの報告 10:30〜12:00

・農林水産大臣賞 被害防止部門 団体

 篠山市有害鳥獣対策推進協議会(兵庫県篠山市)

「篠山市有害鳥獣対策推進協議会の取り組み ~サル対策を中心に~」

篠山市では年々増加するイノシシ・シカ・サルへの対策として、平成20年に対策推進協議会を設立。その支援チームとして県やJAにも協力をいただき、平成29年度からはNPO法人里地里山問題研究所も構成員として参画した。

当初、サルは頭がよく、何をやっても無駄というあきらめが強かったが、篠山市では計画的な個体数管理と集落主体の対策支援を中心に行ってきた。個体数管理では、サルとの共存を目指し、追い払い効果の出やすい40頭を目標に、加害個体やオスを選択的に捕獲。ICT大型捕獲檻等を活用し、年間50頭程度の捕獲を継続して行ってきた結果、最も頭数の多かったA群も91頭(平成25年)から41頭(平成28年)に減少し、出没割合も減少した。住民にも効果が分かるよう、捕獲しない場合の数値もシミュレーションして見せるようにしている。個体数管理を「見える化」したうえで、サル監視員を設置、1日2回の定時連絡をもとに、地図を見ながら集落で追い払いの計画をたてるようにしている。

平成29年には近隣5市町による広域協議会も発足。住民主体の対策を推進するための支援策として、電子メールでサルの位置情報や目撃情報を通知している。行政向けには、モニタリング結果を自動集計して共有することで、効果の検証や施策の検討に役立てている。現場の課題は施策へとフィードバックするため、2か月に1回サル対策ミーティングを開催し、出没被害状況の情報交換・収集、対処法の検討、住民への説明方針の確認、必要な指導資料の提供などを行っている。

・農林水産大臣賞 捕獲鳥獣利活用部門 団体

 いなばのジビエ推進協議会(鳥取県鳥取市)

「いなばのジビエビジネス 〜森の厄介者を地域のお宝に〜」

鳥取県は平成18年から平成23年にかけてシカの捕獲頭数が28倍と大幅に増え、それをきっかけに有害捕獲だけでなく利活用の方向へと舵を切った。平成24年には1市4町の狩猟者、解体処理業者、飲食店、商工会、行政等が連携し、地域資源であるシカ等のジビエ利用を促進するための「いなばのジビエ推進協議会」を発足した。平成28年度には鳥取県のシカの利用量が北海道に次ぐ全国2位となっている。

ジビエの安全安心の推進をはかるため、施設管理者を対象とした上級者向け、協議会会員および猟友会を対象とした中級者向け、学生およびファンクラブを対象とした初心者向けと、対象ごとに解体処理研修を実施。また、県の生活安全課協力のもと、県内の解体処理施設を対象に、培地検査による「細菌の見える化」と施設に合わせた作業指導で衛生管理の向上に努めている。さらに、鳥取県よりわかさ29工房がHACCP認証を取得したことで、食品の安全性確保とともに消費者への安全性のアピールにも強く貢献した。

販路開拓では、県内・県外におけるイベントでのPRや県内の若手料理人グループ「惣和会」と連携した食育活動、地元スーパーでのジビエ肉販売や学校給食への導入などの活動を行い、ジビエの認知度が大きく向上した。

・農村振興局長賞 被害防止部門 団体

 遠野市ニホンジカ捕獲応援隊(岩手県遠野市)

「ニホンジカ捕獲応援隊による地域ぐるみの野生鳥獣被害取組について」

遠野市では平成20年頃からシカによる被害が顕在化し、平成25年度のシカによる農作物の被害額は約1億6000万円となった。平成20年に電気柵の設置や猟友会による捕獲がスタート、平成24年度には実施隊が発足したが、メンバーの高齢化や捕獲作業の負担増などが問題となっていた。このため、維持管理の負担を軽減させるため農家が主体となり、「遠野市ニホンジカ捕獲応援隊」が平成25年に新たに設置された。

応援隊は講習会を受講することにより、狩猟免許を持たなくても、補助者としてわなの管理や見回り協力などの活動が可能となっている。応援隊では見回りを補助者が行い、捕獲個体を見つけた場合、班ごとに配置した免許所持者に連絡する体制をとっている。実施隊のみで活動していた平成24年には捕獲頭数は334頭であったが、応援隊の設置後の平成29年には1264頭と約4倍に増加した。応援隊の登録者数も設立後の81名から平成28年には125名へと増加し、応援隊員の中から狩猟免許を取得して、実施隊として活動するようになった事例など、新たな担い手の発掘にもつながった。

・農村振興局長賞 被害防止部門 団体

 芦田町福田割石地区鳥獣被害対策協議会(広島県福山市)

「割石鳥獣被害防止協議会の紹介」

福山市の芦田町福田割石地区は市街地から13kmほどの距離にある地区で、農家と非農家の混住地域となっている。5〜6年前からイノシシによる被害が目立つようになり、サトイモや休耕地が荒らされるようになった。人間の居住区にイノシシが入ってきていることを痛感し、これを地域全体の問題としてとらえ、平成25年に鳥獣被害防止協議会を発足。住民への説明では一軒一軒を訪問して歩き、設立時には地区230軒の約7割にあたる157軒が入会した。

協議会のメンバーは、住民の不安を払拭するため先進地での研修会を行い、3.1kmの侵入防止柵を設置した。柵には54か所の門扉と管理道を配置して、設置後の定期点検や修理等を徹底し、イノシシ被害をゼロに抑えることができた。

また、実施隊とは別に平成27年に地元農家を中心とした「割石故郷まもり隊」が発足。イノシシの潜み場をなくすための荒れた雑木林の伐採など、周辺環境の整備や親子で柵の管理道を歩く「里山ウォーキング」、竹細工の体験等を通じて明るい町づくりに尽力している。

・農村振興局長賞 被害防止部門 個人

 酒井義広(岐阜県郡上市)

「平成の里人(鳥獣と草との闘い) ~集落の絆で生活環境整備活動を~」

酒井氏は、22歳から自身も兼業農家として農業に従事しており、平成12年に中山間地域等直接支払制度の推進で、鳥獣害、耕作放棄地対策の集落協定を結んだのが、活動の大きなきっかけとなった。平成23年からは岐阜県が設置した鳥獣被害対策本部の対策専門員、そして国の農作物野生鳥獣被害対策アドバイザーとして活動。退職後も再任用職員として鳥獣被害対策に従事している。

現在の鳥獣被害は、農林産物被害から生活環境被害へ拡大していると捉えており、その対策の普及指導方針として「鳥獣災害防止七策(皆で、囲って、除いて、追い切って、捕って、食べて、里人で)」を作成した。住民の情報共有の手法として、航空写真地図に被害農地や防止柵の設置場所、除草管理状況をマップ化し(鳥獣前線マップ:幸柵くん、雑草前線マップ:幸作くん)、集会所に掲示した。また、農作物の鳥獣被害防止は、侵入防止柵の設置が最大の被害軽減につながることをあらためて強調し、自身が考案した複数の獣種に対応した鳥獣侵入防止柵「猪鹿無猿柵」を紹介。野生鳥獣の隠れ場所となる耕作放棄地等は、防草シートで管理を行っている。集落のリーダー育成にも、マップボードは活用され、住民を主体とした計画的な生活環境保全整備活動を推進している。

・農村振興局長賞 捕獲鳥獣利活用部門 団体

 日野町猟友会(獣美恵堂) (滋賀県蒲生郡日野町)

「日野町猟友会(獣美恵堂)の取り組みについて」

日野町は滋賀県の南東部にある米や肉用牛、乳用牛を主要な農産物とした地域で、シカについては、平成25年から被害額、年間捕獲頭数も減少傾向にある。

日野町猟友会では、平成18年から捕獲されたシカ肉の利活用を検討し、長野県からフランス料理店のオーナーシェフを迎え、ジビエ料理講習会を開催。平成19年には京都フランス料理研究会と連携し、「天然日野鹿を広める会」を結成した。活動を通じての販路確保やジビエへの関心の高まりから、平成21年に猟友会の有志12名により「獣美恵堂」を設立した。

当初は会員所有の小屋を改築して食肉処理業の許可を受け、平成26年度には衛生管理について国のガイドラインが示され、それに基づいた処理施設へと充実させていった。品質維持のため、現地での速やかな放血後、1時間以内で処理加工施設に搬入することを義務づけるほか、冷凍後に金属探知機にかけることで、銃弾の残留がないようにしている。

シカ肉の利用拡大に向け、カレーハウスCoCo壱番屋で平成22年より「鹿カレー」を販売し、現在県内9店舗で販売している。鹿カレーの反響は大きく、カレーチェーン店の協力を得て、給食調理員を対象とした講習会を実施し、町内の小中学校給食に鹿カレーやシカ肉の唐揚げなどが年2回提供されるようになった。その取組は給食だよりにも取り上げられ、子ども達の食育活動にも貢献している。

・農村振興局長賞 捕獲鳥獣利活用部門 個人

 山本倫明(福岡県みやこ町)

「みやこ町における捕獲鳥獣利活用について(山本倫明氏の取組)」

みやこ町では、イノシシ・シカの被害に対し、被害防止の取組を行いつつ、利活用を促進し、地域資源として活用を図ることとした。

山本倫明氏は、昭和50年から猟師として活動しており、平成28年度からは鳥獣被害対策実施隊員として、地域の農作物の被害防止に貢献している。その実績をふまえ、平成22年から稼働を開始した「みやこ町有害鳥獣加工施設」の施設長に就任。衛生的で高品質なジビエを得るため、「捕獲搬入マニュアル」を作成し、捕獲後は現地にて必ず止め刺し、放血をして1時間以内に搬入するなどのルールを定めた。捕獲者からは捕獲情報や止め刺し・放血の仕方などもヒアリングし、個体の状態とあわせて総合的に受け入れの可否を判断している。捕獲者・捕獲場所・捕獲日・獣種・捕獲方法などはデータ化して、個体ごとに管理し、「みやこ肉」の安全・安心に貢献している。また、不可食部分等の管理などを定めた衛生管理マニュアル、器具の使用方法などを定めた清掃マニュアルも作成し、施設の衛生管理も徹底して行っている。

今後に向けての取組として、インターンシップ学生や加工施設視察の受け入れを行っている。また、直売所でのジビエの試食や学校給食でのイノシシ肉の提供、地元高校生とのコラボレーションによるミートソースやメンチカツの開発も行っており、ふくおかジビエ流通促進協議会の会長として、ジビエ普及促進に尽力している。

 

2.基調講演 13:30〜14:20

田中康弘

「ニッポンの肉食 マタギから食肉処理施設まで」

時折「日本は仏教国で肉を食べなかった」とメディア等で取り上げられるが、基本的に一般人は昔から肉を食べてきた。今回の講演では、田中氏がカメラマンとしての活動で携わってきた秋田県の阿仁地区と宮崎県の椎葉村を紹介。

阿仁地区では現在、猟で生計を立てている人はいないが、獣を資源、授かりものとして、手を合わせて山の神に感謝する風習がある。阿仁マタギにとって冬眠明けの熊は特別な存在で、肉のほか、毛皮、脂、胆のうなども資源として利益をもたらした。阿仁マタギは非常に自己プロデュース力の高い人たちで「マタギ」という言葉を使い、ブランドとして確立させていった。昔は熊から得た臓器などを薬として売り歩き、行商先で「マタギ」ブランドの売り込みや情報収集(今でいうマーケティング)を行っていた。宮崎県の椎葉村も狩猟の盛んなところで、獲物はイノシシが中心である。山の神に対する儀式などマタギとの類似性も多く、猟の初日は恵方で決めるという風習が残っている。

シカ、イノシシが急に増えたのは、ここ30年以内で、現在では有害駆除として通年で狩猟が行われている。田中氏自身は、猟をする人が減ったから野生動物が増えたという説には疑問を感じている。狩猟圧力というのは、逃した動物にのみ働くもので、捕殺したものに圧力はかからないし、確実に仕留めてこそ被害は減るものだと考えている。

日常的に食している畜産肉というのは、クセのない若い肉を食していることがほとんどである。野生の獣肉は年齢、雌雄、処理の仕方等でバラツキが大きく、昔から食していた人たちが臭い獣肉を提供し、それ以来敬遠してしまう場合もある。猟師の自家消費では沢水につけることや、吊るさずに処理するケースも多い。現在では、獣肉でも生きた状態で運搬するなど衛生的に取り扱うケースも増えている。獣肉も畜産肉のように特に意識せずに消費されるのがベストである。

 

 

3.取組事例紹介 14:20〜15:30

・兵庫県立大学 自然・環境科学研究所

山端直人(総合司会)

「総合司会の解題に変えて」

現在の獣害対策の課題は、集落の高齢化や捕獲後処理、自治体の人材育成など多岐におよんでいる。自身の携わってきた現場の課題を図示して解題としたい。

獣害対策では、「エサ場」や隠れ場所をなくす(予防)、囲える場所はできる限り囲う(治療)、加害個体を捕獲する(手術)、という手順で進めることが大切となる。防護柵でも正しい規格での発注や担当者を決めてメンテナンスを継続することが必要で、そこから加害個体の捕獲へと対策を進めていく。

伊賀地域は高齢化率が50%、人口は減少しているが、シカは増加しているという状況にあり、対策の労力が徐々に中核的な担い手に集積している。担い手はジビエ等の活動で経営をしているが、地域のステークホルダーの利害が調整できるか、対策の集積が担い手の重荷にならないか、人件費がかかる、売上を上げるにはどうすればよいか等、課題は多い。そうした状況下で行政担当者がどう対策に関わっていくかが重要となる。

今回の事例紹介では、地域での対策の担い手に関して、鈴木克也氏と長野県下伊那農業高校、捕獲者の減少や地域での育成に関して、垣内忠正氏、ジビエ経営上の課題について田中雅規氏と河戸建樹氏、計画や支援の担い手(行政)の育成について鈴木正嗣氏にお話しいただきたい。獣害対策は防災などの「地域政策」と同じで、地域の課題を解決するためのモデルになるのではと考えている。

 

・株式会社 ART CUBE 京丹波自然工房

垣内忠正

「捕獲従事者育成のための捕獲技術の指導や支援」

自身も猟師として活動する垣内氏は、田舎暮らしにあこがれ、30年前に京丹波町へ移住。地元に人を呼びたい、「衣・食・住」の「住」を提供し移住者の手伝いができないかと、平成19年に不動産業「株式会社ART CUBE」を設立した。平成25年には猟師としての経験を活かし、食肉加工処理施設「京丹波自然工房」の運営も開始した。

垣内氏は、猟師として携わった有害駆除活動で捕獲した個体を廃棄するのはもったいないと感じており、これを地域資源としてビジネスに活用できないかと考えた。田舎暮らしを始める若い人の仕事づくり、獣害対策も兼ねて、猟師育成のための講座「KYOTO猟師教室」を開講した。講座では座学からわなの設置に関する実習、地元猟師の巻き狩り猟見学などを実施。猟師のさばき方を確認し、処理施設との差を学んだ。また、講座の中でジビエ料理教室も行うことで、食肉として利活用することを意識してもらった。現在では、猟師で生計を立てている人や「狩ガール」として一緒に活動する人も出てきた。

鳥獣被害対策は、しばらくは鳥獣ビジネスと一体で進めたいと考えている。捕獲個体の肉を流通させ、狩猟の経済的な利益を確保することで、捕獲従事者のやる気を維持していきたい。経済的な利益が確保されれば、従事者数の増加を見込めることができ、それが地域の雇用創出となり、獣害対策も進めていけると考えている。狩猟、有害駆除、個体数調整、利活用と捕獲にもいろいろあるが、これからは目的にあった人材育成、プロを育てることが重要である。

 

・髙島屋洛西店

田中雅規

「百貨店におけるジビエ(鹿肉・猪肉)販売 ~地方郊外店での挑戦~」

田中氏がジビエ販売に着手したのは、個人的な関心からで、畑を借りて農業をする中で知り合った農家から獣害の話を聞いたことや、食育事業での猟師との出会いでジビエの美味しさを知ったことがきっかけとなった。

髙島屋洛西店は地方郊外型の店舗で、地域密着・地方活性の視点から「獣害をビジネス」とするには良い環境であったが、最大のハードルは食の安心安全の確保であった。そんな中、京都府農業総合支援センターより京丹波自然工房を紹介され、垣内氏の加工施設を訪問。わな猟や金属探知機による銃弾リスクの低減、放血スキルと運搬時間の短縮により臭みを抑えた肉質、48時間冷凍による寄生虫リスクの低減などを確認し、髙島屋でも扱うことができる可能性が見えてきた。販売までの社内コンセンサス構築では、社内の品質管理グループによる施設調査、衛生担当者との議論と施設調査があり、1年という時間がかかった。

販売に際しては、広告媒体を通じての情報発信やシェフの実演などのイベントを行い、ジビエをアピールした。以前にシカ肉を食べたことがあり、臭くて固いというイメージを持っていた顧客にも好評であった。顧客のニーズはまだまだ潜在的なので、試食によって味を覚えてもらい、今後は大型店舗(京都店)での販売やジビエ惣菜などの商品開発、ギフト商材の開発などに力を入れていきたい。

 

・わかさ29工房

河戸建樹

「解体処理施設でのHACCP認証取得と猟友会とのネットワーク構築」

河戸氏は中古車販売業を主体に営んでいたが、父の健氏が猟師として50年近く活動しており、猟友会との強いネットワークがあったことが解体処理施設を始めるきっかけとなった。鳥取県の猟友会のうち、わかさ29工房へ搬入しているのは八頭エリアで、平成27年度時点で172名の登録者が在籍している。平成28年度の同エリアの捕獲頭数はニホンジカが約4000頭、イノシシが約1300頭であった。わかさ29工房は平成28年度からシカの受入頭数が飛躍的に増加しており、平成27年度の約500頭から平成28年度には約1700頭となった。全体の数が増えたことで猟期、有害捕獲を問わず、月ごとの受け入れ個体数が増加した。これだけの数が搬入されるのは、父の健氏が構築したネットワークの影響も大きいと考えている。

これからは、消費者に向けた安心安全のアピールとして、明確な指標が必要だと考え、ジビエ処理施設での県版HACCP取得に向けて平成28年から動き出し、平成29年にはHACCP認定を取得することができた。HACCPを取得することで、衛生管理や製品管理がしやすくなり、取引先に安全性を示すことができ、信頼の獲得にもつながった。

 

・長野県下伊那農業高校 アグリ研究班

「鳥獣被害対策と利活用の継続的な活動に向けて ~私たち、高校生にできること~」

下伊那農業高校がある南信州地区は、シカによる被害が多く、野生鳥獣の被害対策実施地域である。また、昔から高タンパク質の食材として、シカ肉は「山肉」と呼ばれ、当たり前の食材として食べられてきた。ジビエは長野県内でも急速な広がりを見せており、捕獲駆除された獣を利活用したいと考えた。

アグリ研究班では、地域を元気にしていくため、援農活動やジビエの普及、遊休農地の対策などを行っている。その活動の中で、まずはシカ肉の美味しさを知ってもらおうと、高校生アグリレストランを始めた。平成25年・26年には地元飯田市の川路そば普及組合と共同運営でシカ肉を提供、平成26年には銀座にある長野のアンテナショップで高校生レストランをオープンさせた。その他様々なイベントでシカ肉のブースを出展し、シカ肉の試食とパネル展示を行った。こうした活動が徐々に地域に浸透し、平成27年には県産シカ肉が地元スーパーなどで通年販売されるようになった。現在は、家庭でも消費してもらえるように、料理教室の開催や県林務部と連携した普及活動を行っている。

また、アグリ研究班では被害対策にも取り組んでおり、野生動物の隠れ家をつくらないよう、遊休農地にジャガイモ・コムギを植え付け、収穫物での商品開発や交流活動を行っている。肉以上に廃棄されている皮にも注目し、革職人を講師にレザークラフトの作成方法や販売方法について学んだ。高校生ならではの発信力を活用し、多くの人に野生鳥獣について知ってもらいたい。

 

・NPO法人 里地里山問題研究所(さともん)

鈴木克哉

「獣がい対策で地域を元気に 関係人口による獣害の創造的な解決を目指して」

まず鈴木氏は、ジビエで促進される捕獲は鳥獣被害軽減に結びつくか、利活用による受益者と被害農家や住民などの受苦者が分離・乖離していないかという点を指摘。さともんでは、被害対策をベースに確実な手法で「害」を軽減することを第一に考え、「獣害対策」を資源化して地域を元気にすることで、被害農家や住民などの受苦者に利益が還元されるしくみをつくっている。

さともんは篠山市を拠点に、都市部の住民に着目し、地域の獣害対策支援を通じて、農村の地域資源を地域住民と一緒に守り、継承するネットワークづくりを行っている。都市部の住民とともに遊休農地で黒豆作りを行いながら、その黒豆を守るため、大型の捕獲檻の設置や獣害柵の点検・補修作業を一緒に行った。

地域を元気にするためには、地域の内外で交流を生むことと、活動が維持できる収益を生むことが大切になる。そのためには獣害対策をきっかけに地域の魅力を発掘し、対策支援と地域資源活用をセットにしたツアーやサービス・商品で、集落が利益を得るビジネスモデルの構築を目指していくことが大切である。都市部の住民に支援者(ファン)になってもらうため、かかわりの場を用意し、獣害対策の関係人口を広げる取組を行っている。その一環として、獣害対策を盛り込んだ黒豆オーナー制度や農作物購入による支援を遠隔地からできるようにしている。獣害対策そのものを独立したビジネスとするのではなく、獣害がなくなっても失業しない支援組織が今後必要となる。

 

・岐阜大学 応用生物科学部

鈴木正嗣

「自治体の人材育成機関やシンクタンクとして機能し得る寄附講座・寄附研究部門

~野生動物管理をめぐる官学連携の一様式」

まず行政の方向けに、事業体や研究機関と関わっていくうえでの注意点を指摘。事業体には悪質なものも存在しており、被害を少しだけ抑えて、意図的に長く仕事を受注するケースが見受けられる。また、世の中の役に立つより研究の役に立つものを優先する研究機関も存在する。本来であれば、行政と研究者は日常的に情報を共有し、研究者から指摘された不都合な点も、面倒でも受け入れて改善する必要がある。

一般的に、連携という言葉は極めて良いニュアンスで語られがちだが、話題性と実効性は異なる点に注意しなければならない。岐阜大学と岐阜県との連携では、鳥獣対策に従事する岐阜県職員2名を常駐、研究員も2名を配置し、県がお金を出し、県の役に立つ研究を行うという体制をとってきた。大学からの提言書についても、県が税金を投入しているため、受け入れられやすくなった。また、この連携では研究機関が、仕事をしながらトレーニングする場ともなっている(野生動物の高等教育システム)。

研修会では、捕獲手法のカリキュラムは取り入れておらず、捕る・食べるの前にまず囲うことを優先している。計画性のあるカリキュラムとなっており、担当職員の異動の問題もあるため、マンネリをいとわず継続していくことが大切と考えている。鳥獣対策では技術論よりも体制論が重要であり、従事者の技量よりも行政の発注能力や管理監督能力が大切である。

国レベルの話として、これからは「人材育成」から「教育」を重視すべきだと考えている。鳥獣担当として、きちんと教育を受けた人がいるかというと疑問であり、そうした教育を受けないままに現場に配属されるという問題点がある。鳥獣被害の問題は「社会問題」であり、野生動物の生態学や行動学はあくまで一つのツールである。応急処置的な人材育成は限界がきており、獣医のような「モデル・コア・カリキュラム」を野生動物管理学についても策定するべきではないかと考えている。

 

 

4.質疑応答 15:50〜16:30

総合司会の山端氏から事前アンケートや当日参加者から集めた質問を、各登壇者に振る形で進行した。

・NPO法人 里地里山問題研究所(さともん) 鈴木克哉

質問:人手不足で獣害対策を続けることが困難だが、どうすればよいか

回答:獣害以外でも集落を維持する活動そのものの人手が不足している。獣害の解決を目標としていては、人手不足の問題は解決しない。地域を元気にすることを目標とするべき。その過程として獣害をクリアしていければと考えている。遊休農地もチャンスとなるフィールドが増えると前向きにとらえることもできる。

 

・長野県下伊那農業高校 アグリ研究班

質問:高校生の視点で地域を元気にすることについて。また、教育としての効果も非常に高いのではないか

回答:もともとのきっかけとしては、地元の高校生に地域を元気にする手伝いができないかと考えた。問題点を地域の人と共有しながら、高校生にできることを考えて活動してきた。実際に高校生と一緒に取り組むと、地域の方からも生き生きとしてくるという意見をいただいた。高校生が積極的に関わっていくことで、地域が元気になる手応えは感じている。高校生側も地域に入ることで、今後自分で生かせることはないかと考えるようになる。地域に残って、地域を元気にしたいと考える子も出てきた。

 

・株式会社 ART CUBE 京丹波自然工房 垣内忠正

質問:農地を守りながら加害個体を獲っていくこと、狩猟者の教育や若手を取り込んでいくことについて

回答:人がいない中で狩猟者を育てるのは難しい、これは農業・林業と同じ問題だと思う。昔からの住民は静かに暮らしたいという人が多い。企業がビジネスとして入ることも必要と感じている。自身は、狩猟がしたい、その環境で子どもを育てたいという気持ちで移住した。狩猟は地域の人から感謝される対象となる。それが地域での雇用につながればと思い、活動している。

 

・髙島屋洛西店 田中雅規

質問:持続的なビジネスとするポイントや流通としての場を作っていくことについて

回答:最初はCSR的な観点からスタートした。持続的なビジネスとするには価格設定が大切で、生産者が損をするようでは続いていかない。お客様にどれだけ小売業として定着させていけるかが、今後のポイントと感じている。鈴木正嗣氏の話すように、これからは企業淘汰の時代になると思う。通常販売では、天然の肉としての価値を認めてもらえるよう努力していきたい。

 

・わかさ29工房 河戸建樹

質問:今後の安全管理での規格、HACCPなどについて

回答:わかさ29工房も全国ジビエ振興協会の1つとして、和歌山や岡山と交流を持っている。そこでも衛生面は絶対視されている。ジビエも食品として畜産肉と同等の扱いを受け始め、2020年の東京オリンピックをきっかけにHACCP取得の方向性になっていくと思う。処理場の経営も売り先がなかったり、逆に在庫がなかったりと厳しい面がある。他との差別化をつけられないと販路を確保できない。

 

・岐阜大学 応用生物科学部 鈴木正嗣

質問:行政の転勤や人材育成について

回答:自身が獣害問題に携わり20年が経つが、なかなか改善されない問題。教育システムから変えていかないと、現場がどんどん疲弊していってしまう。事例紹介で話したような高等教育を大学に限らず、専門学校などでもよいので、行っていくべきだと考えている。

 

・総括

兵庫県立大学 自然・環境科学研究所 山端直人(総合司会)

課題が多岐にわたり、まとめができるかと考えていたが、獣害を何とかしながら社会・地域を何とかしたいという視点で活動している点はどの登壇者も共通している。今日お話を聞いて、地域の問題を解決するため、同じ山を違うところから登っているように感じた。こういったシンポジウムを機会に、同じ山を登って頂上で握手できれば良いと思う。